昨日の朝目覚めた時から高熱に悩まされていた一の体は体力の消耗が激しく、樹里が病院に連れていってくれたものの、なかなか熱は下がらなかった。

カン、カン、カン

やけに力無く階段を降りていく加藤の足音が耳障りに響く。

「待って。加藤」

一は加藤を呼び止めた。

加藤が階段の途中で足を止めてこちらを振り返る。

「ちょっと待ってて」

そう言うと一は一旦部屋の中に入り、今日持っていくはずだった父の着替えの入った紙袋を掴む。

それを持って、階段に立ち尽くしたままの加藤の前まで下りていき、一はその紙袋を差し出した。

「帰る前に大学病院に寄ってってくんない?」

加藤はきょとんとした顔で一を見上げる。

なので説明を加えた。

「親父が入院してんだよ。西の五階。そこのナースセンターで芹沢の病室って聞いてもらえば案内してくれるから」

「え、あ。うん」

加藤に紙袋を渡す。
そこで初めて一は加藤が反対の手にも紙袋を持っていたことに気がついた。

一の視線に気がついて加藤が紙袋を背中に隠す。

「何?それ」

聞くと加藤はムッとしたように眉間に皺を寄せた。

「……スイートポテト」

聞き取れない程低くて小さな声で加藤が呟く。