「お、飴サンキュ。煙草止めたら口淋しくてたまんねー」

「食い過ぎんなよ」

「親父に向かって生意気言ってんな」

父は飴を一つ口に放り込むと口の中でころころと転がした。

「で、あいつは?まだバレてないんだろ?」

「母さん?バレてはないけど……たまに電話来る」

「ふうん……」

これも父が入院してから気付いたことだが、父は母の話をする時、少年のような顔になる。
少年である一が言うのもおかしな話だけれど、父が同級生の男子のように不満げにしたり、怒ったり、甘酸っぱい想いを我慢するみたいに目を細くしたりする。

「勉強はどうだ?」

「こないだの中間、455点だった」

「やるじゃねーか」

「まあ、部活もしてないし」

「……悪かったな。無理に転校なんかさせて」

「いいって。逆に都合いいことも増えたし」

一の言葉に父がにやりとする。

「あの女?」

「……我慢はしてる。ヤッてはないし、そのかわり大事に、してるつもり」

今度は「ぶふぉっ」と変な音を出して父は爆笑した。

「ヤるとか言うなよ」

「じゃ、なんて?」

「そーゆーのは、ほら、アレだ。……愛し合うとか」

言いながら父が笑いを堪えてるのがバレバレだった。頬の筋肉がぴくぴくと痙攣している。