大学病院の処方箋の待ち合いスペースは相変わらず人でいっぱいだった。

一はそこを通りすぎ、地下一階の売店で飴を買うとエレベーターで一気に8階へと上った。

病室のドアをノックして中へ入り、1番窓際のベッドへ向かう。

カーテンを開くと父が寝息をたてて眠っていた。

パイプ椅子に腰を下ろして父の寝顔を見つめる。
父の手術は無事に終わり、脳の腫瘍は摘出されたが、継続治療を行うことになったためまだ退院出来ていなかった。

買ってきた飴を枕元のチェストに置くとカサリとビニール袋が音をたてた。

「んっ」

その音に父が目を開く。
どうやら眠りは浅かったようだ。

「何だ。来てたのか。起こしてくれればいいのに」

不精髭の生えた顔で父が眠たそうに目を擦る。

「今来たとこ。洗濯物はこれだけ?」

「ああ、毎週悪いな。別に洗濯くらい自分でどうにでもすんのに。別に動けないわけじゃないし」

「いいって。自分の服だけ洗うのも二人分洗うのも大してかわんねーし」

「ふっ。主婦かよ」

父はカラカラと乾いた声で穏やかにわらった。
父がこんな風に笑うと知ったのは父が入院してからだった。