芹沢が女の人に祥子のことを「クラスメイト」と教える。

祥子は今自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

「加藤、よくここ来んの?」

芹沢から話し掛けられたのはこれが初めてだ。

「……たまに」

「ふーん。……あ、俺らもう帰るから。じゃ」

それだけ言って問題集を黒いトートバックにしまうと芹沢は女の人の手をごく当たり前のように取って祥子に背を向けた。

祥子の中で黒い物がもやもやと渦巻く。

誰よ、それ。
あんたの何。

面と向かって聞いてやりたかったと思う半面、とてもじゃないけれど聞く度胸なんかない自分がいて嫌気がさす。

祥子は手にしていた本をでたらめな場所に戻すと逃げるようにして図書館を後にした。