もう充分に酔いのまわっている樹里はテツの持ってきたものには手をつけずに横になった。

上下部屋着姿の樹里は気を抜くとすぐにでも深い眠りに落ちそうだ。
とろん、と瞼が落ちていくのを我慢してテツを見つめる。

テツはグラスではなくマグカップにワインを注ぎ、コーヒーでも飲んでいるような仕種で樹里の顔を覗き込んでいた。

「今日は母ちゃんいないから楽だね。いっつも母ちゃんは樹里に厳しいから、俺が樹里の部屋にいると機嫌悪くなるし」

「……単なるヤキモチでしょ。あんたのこと溺愛してるもんね。気持ち悪い」

昔から母はテツに甘く、樹里に厳しい。
姉弟喧嘩をしても必ず怒られるのは樹里なのだ。

明らかにテツが悪い場合でも「お姉ちゃんでしょ!」と一喝されるのがオチ。

いつからか説明するのも面倒になって母に何かを期待することもやめた。
樹里がリストカットをするようになってから母は樹里を心配するようになったけれど、それでも優先順位は変わらない。

テツが1番、樹里は二の次。