父の言っていることが嘘なのか冗談なのか確かめる術もなかった。
悪趣味過ぎる。

「あ、因みに母さんには内緒だからな。あいつ、絶対大騒ぎして泣くから。宥めるの大変だってお前も知ってんだろ」

「いつから……」

「あ?」

「いつからだよ」

「今年入ってから。この家出る前の日。頭痛が酷いんで病院行ったらやけに大袈裟な検査受ける羽目になりやがってさ」

父は他人のことでも話すようにあっけらかんとしていた。

「本当はさ、お前にも言わずに手術受けちまおうと思ってたんだぜ。お前が俺のこと身勝手な親父だと思ってんの知ってたし、急に同情されても嫌だし」

ふう。と、溜息にも似た音が父の口から漏れる。

「でも、いざとなるとお前にだけは言っておこうって。そう思っちまった」

再放送の三流ドラマでも見ている気分だった。
今にも父親が爆笑して「嘘だって。何真に受けてんだよ」と一を馬鹿にするんじゃないかと期待したが、最後まで父は「嘘だ」なんて言わなかった。

そのかわりに、

「お前の人生だってこの先どうなるかわかんねーんだ。お前の惚れた女がどんな女でも構わねーけど、自分で責任取れないうちは我慢するってこともちょっとは覚えろ」

と偉そうに笑った。