樹里は一の姿がドアの向こう側に消えるまでじっと見送った。

一の髪の毛の先から爪先まで、全てが完璧なまでに作られていると思ってしまう。真っ黒な瞳、真っ黒な髪、華奢だけれど筋肉がしっかりとついた背中。

部活で日焼けしたその肌によく映える真っ白なシャツ。

その一挙一動に樹里の神経は敏感に反応した。

一の姿が消えてふと我に帰る。
樹里はもう、小さい頃から見飽きる程見慣れた周りの景色をあらためて見渡した。

樹里の家はここからすぐ、自転車なら2、3分で行けてしまう距離にあった。
一のアパートがあるこの通りは樹里がいつも犬を連れて歩く散歩コースでもあった。

まさか、こんなに近所だとは……。

樹里は後ろめたいような僅かな罪悪感を抱え、学校へと引きかえした。