サイレント

ヘッドライトに照らされた一の背中が遠退いて行く様子を樹里は絶望的な気持ちで見つめた。

さっきまで樹里に触れていた指が、樹里を呼んでいた声が、激しいキスを交わした唇が、全て、遠退いていく。

自分が中学二年生の女の子だったら迷わずその背中を追い掛けて行って、その腕に縋り付いていたかもしれない。

例え振られたって同じ教室で言葉を交わしたり、笑いあったり、授業中に彼の姿を見つめたり、そういうことが可能だった。

けれどもうすでに未成年でも何でもなくなった樹里にはそんなこと出来なかった。

一瞬でも手に入れられたことが奇跡だったのかもしれない。

樹里はコートのポケットから皺くちゃになった一万円札を取り出した。

「いらない」と言われたのはお金じゃなく、自分かもしれない。

そう思うともうダメだった。