偽りだけの城




「忍さまっ!」


賑やかだな、と思って振り返れば、黒服の男が壁に手をついていた。


「意外に早かったわ」


「あの方に、連絡を、いただきまして」



…あぁ、そっか。


はぁはぁと息を切らしているのは家の使用人の1人。


私付きの、と言っても間違いではないほどに、しょっちゅう私の周りにいて…振り回している。



急いできたように感じるのは、スーツ姿だから。


普段だったら周りに騒がれるのを避けるために、私服とかに着替えてくるものだけど。



余程恐い相手に頼まれたんだろう。着替える時間も余裕もなかったようだし。



「さぁ、戻りましょう」


汗を拭いながらも手を差し出すその姿にはどこか慣れを感じた。

慣らさせたのは日頃からの私の気まぐれによるものだけど。



「先に行ってていいわよ」


手をとらずに背を向ける。


「逃げないから」


頑固として動きそうにない彼。




「そうそう。逃がさねーし」