綺羅くんは、私にとって遠い人だったから。
なのに今は、笑ってくれて、優しくしてくれて。
こうして隣にいてくれるから。
夢みたいで。
嬉しくて。
嬉しくて。
だからこれは、嬉し泣きなんだよ…。
「あーっ!!小林達が夜神くんの彼女泣かしたー!!」
「え!?お、俺ぇええ!?」
「あんたら以外に誰がいんの!!どうせ迫って怯えさせたんでしょ!!」
「あんたら最低!!こんな可愛い子泣かして!!」
「「ごめんってー!!」」
ごめんなさい、先輩方。
私のせいで女子の先輩方に怒られちゃって…。
「妃那、落ち着いたか?」
「う、ん……ごめんなさ…」
「謝んなよ。俺もごめんな?ちゃんと守ってやれなくて」
そんなことないよ。
綺羅くんは、ちゃんと守ってくれたよ。
「綺羅、彼女大丈夫か?」
声をかけてくれたのは、とても整った顔立ちをした大人っぽい人。
誰だろう?
すごく優しい顔してる人だなぁ。
「修哉先輩。はい、大丈夫っス。すみません」
修哉先輩…?
え、じゃあこの人が綺羅くんの尊敬してる先輩なんだ!
「修哉先輩、俺の彼女の、妃那です」
お、俺の彼女っ…!!
か、顔が熱い…。
って、やってる場合じゃないよ、私。
「えと、私…星野妃那です。よろしくお願いします」
「妃那ちゃんって可愛いよね。モテるでしょ」
「い、いえ…そんな…」
カッコいいな。
綺羅くんが尊敬してる理由、わかる気がする。
「綺羅、一年みんなあっちにいるから。妃那ちゃん連れてったら?」
「はい。ありがとうございます」
綺羅くんに続き、私もペコっと頭を下げてその場を離れた。
「妃那、今から俺の友達んとこ行くんだけど。絶対俺から離れないで」
え…。
離れないでって…。
分からないけど…。
「うん、分かった」
綺羅くんが真剣な目をしてるから。
サッカー以外で見たことないくらいの真剣な目をしてるから。
私は、離れないよ。



