side 妃那



朝、6時20分。


いつもの電車に乗るけれど、私は6時に駅に着くようにしている。




「妃那、おはよ」



改札口の前に立っていた私に、彼が声をかけてくれる。



「おはよう、綺羅くん」



私が6時に来る理由、それは綺羅くんと話すため。



この間初めて駅で話した日から、自然と話すようになった。



呼び捨てで呼んでいいとは言われたけれど、恥ずかしくて呼べてない。


けど、見ているだけだった頃に比べれば、大きな進歩だと思う。


改札を通ってすぐ横にあるベンチに2人で腰をかけた。


綺羅くんは色んな話を聞かせてくれる。



キャプテンがかっこ良くて憧れてる人だとか、クラス男子はほぼサッカー部だとか。


綺羅くんが話してくれることは、全部楽しい。



「LINEしていいって言ってんのに、妃那してこねぇんだもんな」



連絡先を教えてもらった私だけど、なかなかできないんだよね。


だって…



「部活で疲れてるんじゃないかって…」




疲れてるのに私の相手をしてもらうなんて…。


ただでさえ、強豪校なんだから、練習だって相当厳しいはずだから。



申し訳なくて、LINEなんてできないんだよね…。



すると、私の頭の上にポンっと温かいものが乗った。



「え……」




それは、綺羅くんの手で…。


それが分かった瞬間、私の胸がドキドキと音をたてる。



「別にいいよ」



別に、いい?