「ちゃんと、自分と向き合ってきなさい。お母さんは優愛の味方だから。どういう選択してもちゃんと受け止めてあげるから。

だから、ちゃんと戦ってきなさい」


私は差し出されたチケットをゆっくりと自分の手で受け取った。


「……優愛。ごめんなさいね。あの夏の日。本当は悩んだの。あなたをあの島へ行かせようかどうか」


お母さんはそう言って、涙を流した。


「なんで、お母さんが泣くの?」

「……陽向君と会えばもしかしたらあなたの記憶が戻ってしまう可能性はあった。だけど、大丈夫かと思ったの。あれからもう時間は経ったから。

だけど……。あなたの記憶は戻った」


お母さんの頬に涙が一滴伝うのが分かった。


「陽向君は一体あなたに何を言ったの?」


お母さんが優しい目をして私をみてくる。

陽向が私に言ったこと。

それは……


『お前、変わってねぇーな??』


「そんな……大したこと言われなかったよ」


普通のそこらへんにいる男の子だった。


『え?だって……うはははっ!』


「……大声でいつも笑ってて」


『……あ、UFOっ!』


「子供っぽいところも……あった」


私の頬に涙が伝ったのが分かった。


『会えてよかった』


「たまに切なそうな顔をするところが引っ掛かったときもあったけど、陽向そのあとすぐ笑ってごまかすから……っ」


なんで私気づかなかったんだろう。

気づくチャンスは何度もあったのに……。


『……よく俺だってわかったな』


陽向はいつも私の心に寄り添っていてくれたのに。


「……好きなのね。陽向君のこと」


お母さんはそう言って私の頭を優しく撫でた。

私はそれに正直にうなづいた。


「……そう。じゃあ、行きなさい」

「……え」


私が顔を上げると、お母さんは優しく私に笑った。

お母さんはそっとゆっくりとその場から離れた。


「優愛」


部屋から出る直前、私の名を呼んで笑った。


「陽向君のお母さんと一度だけ話したことがあるの」

「……」

「いい名前だって、あなたにピッタリな名前だって褒められたわ」

「……っ!」

「……お母さん、ちょっとコンビニいってくるわね」


そういって、ゆっくりとお母さんは部屋を出て行った。

正直、今は静かな部屋で1人、自分と向き合う時間が必要だった。

記憶は戻った。

だけど_________受け入れたくない。

それが本音だった。

すべてが夢であればいい。

あの夏休みの日からすべてが夢であればいいと思う。

そしたらまた平和な日々が私には待っているのに_________。