それから俺らは流石にいつまでも海風に当たっているわけにもいかず、船の中に入った。
客はどうやら俺らだけのようで、中は誰もいない。
ただ、操縦席の運転手が一人いるだけ。
「陽向はさ、怖くないの?」
隣の席に座っていた悠里が、いつもの平然とした調子でそんなことを聞いてきた。
「優愛に会うのがかって?」
「うん、そう」
「会うのは怖くねぇよ……。ただ……」
「ただ?何?」
「ただ……。あいつにもし、すべての記憶戻ったら……。何するか全くわかんねぇから、それが怖い」
「……そっか。
私はね、正直言うとこの瞬間を待ってた気がするんだよね」
「……。お前は、そうかもしれねぇな」
優愛が初めて島に来たとき心を始めに開いたのは俺ではなく、同姓の悠里だった。
二人は親友だった。
喧嘩もよくしてたけど、次の日には絶対に仲直りしてた。
喧嘩するほど仲がいいとはまさにこの事だと思った。
そんな親友に忘れ去られた親友はどんなに辛く、苦しかったのか俺は知らない。
それは、悠里にしかわからない。
「だけど、陽向が言うように、優愛の精神状態がどうなるかは全くわからない。
あの事件は事故だった。だけど、優愛はきっと……」
「あの事件だけじゃない。そのあとのことも、優愛は所々の部分が抜け落ちてる。
忘れたい記憶を、自分に都合の悪い記憶を優愛はあの日一瞬にして消したんだからな」
あの日、全てが変わった。
優愛が記憶を消したことは俺らにとって、優愛にとってよかったのか……悪かったのか……。
それは今だよくわからない。
「陽向、もうつくよ。ほら準備して」
悠里がそういって席から立ち上がる。
「そうだな」
俺も立ち上がって荷物をしっかりと持つ。
「陽向らしくないよ」
「何が?」
「ほら、陽向は笑ってな。辛くても、笑ってな。
あんたのお母さんが見たら悲しむよ」
「……ああ、そうだな」