_____サワサワ……

風が静かに騒ぐ。

鳥が静かに鳴く。

この森は今日も静かだ______。


「陽向。どうしたの?珍しく真面目な顔しちゃって」

「あ?……悠里(ユリ)か。
まるで俺がいつも真面目じゃねぇみたいな言いかただな?」

「だってそうじゃない」

「ったく、失礼なやつ」


幼馴染みの悠里がなんの許可もなしに俺のとなりに座った。


「まだ……あのこの事想ってるの?」

「忘れたことはねぇよ」

「そう。お母さんのことは?」

「……それも、忘れたことはない」

「あのこの事、引きとめなくてよかったの?
この島から出るとき見送りもしないなんて、陽向らしくないね」

「かける言葉が見つからなかっただけだ」

「ふーん。あのこともう会えなくなるかもしれないってのに。のんきなもんね」

「……それなら、その方がいいかもな」


俺はゆっくりとその場で立ち上がった。

もうそろそろ仕事に戻んねえと、親父に怒られる。

休憩はもう終わり。


「どこいくの?」

「もう、仕事戻んねぇと」

「そう。大変だね」

「ん、体動かしてた方がなんも考えなくていいし楽」

「陽向はいつも何も考えてないじゃない」

「うっせっ!……じゃあな」

「あ、私もいくっ!陽向の親父さんにちょっと用事あるんだった」


俺の後を悠里がついてくる。

俺はそんな悠里を気にせず歩く。

悠里とは本当に小さいことからずっと一緒にいた。

優愛よりもずっと前から一緒にいた。

よく俺らは一緒に遊んでた。

俺と、悠里と、そして優愛と。

だけどきっと優愛は悠里を覚えてはいない________。