「それでさぁ、氷室先輩超甘えてきちゃってー」

紗英が渡しの目の前でニヤニヤとしながらノロケ話をし出す。

そんな紗英に頷く里咲。

私はといえば、今日の夢のことが頭から離れなくて、正直紗英の話なんて半分も聞いてはいなかった。

私、あの時何て答えたんだっけ……。


_____『そしたら、優愛ちゃんがいじめられるかもしれないよ?』

_____「私なら平気だよ?」

_____『どうして?』

_____「だってね、_____________」


そう。

あの時の私は知っていたんだ。

この状況を


「ってかさ、話変わるけど、マジ最近アイツ調子のってない?」

「アイツってもしかして、佐伯?」

「そーそー!昨日なんかさ、あの数学の御室(オムロ)先生に色目つかってやんの。マジあり得ないー」


打破する方法をあの時の私は知っていたんだ。


「ってかさ、今日の優愛静かじゃない?」


里咲がこちらを少し不機嫌に見つめてくるのが分かる。


「あ、それ。私も思ったー」


紗英がそれに便乗する。


「あはは、そう?いつも通りだけど」


私は何時ものようにこう返す。

この平和がずっと続けばいい。

そう思ってた。


「ならいいけど。あ、佐伯きたよ。里咲、いつものやっちゃう?」

「紗英、鬼畜だねー!やっちゃおやっちゃお!」


そういって、紗英と里咲はニヤリと顔を見合わせる。


「そーいえば、佐伯さんが、御室に色目つかってるところ私見ちゃったんだよね」

「え?マジで?どうやっていろめつかってたの?」

「うんとねー、『先生、どうしてもここがわからないんですー』って。上目遣いでさ。マジあれはないわー」

「うははっ!マジー?超うけるんだけど!」


紗英と里咲が、クラス全体に聞こえるような大きさの声でそんな会話をし出す。

どうしよう。

なんでだろう。

何時ものようにうまく笑えない。

何時ものようにうまく同調できない。

なんで?

なんで?