私は急いで、佐伯さんの前に立ちはだかる。


「ちょっとまってよ!」

「……他に何か?」

「何で私を助けてくれたの?私、日頃あなたにひどいことしかしてないのに」

「……私はあなたにひどいことをされた覚えはありません」

「……え?」

「あなたがひどいと思うことは、私にとってはそんなに気にならないと言うことです」


……変わった人だ。

もとからそう思ってたけど、今改めて思った。


「佐伯さんは、強いんだね」


私がそういうと、佐伯さんは気に入らない表情を見せる。


「強いって……なんですか?」

「え?」

「人は強くなりなさいとかよく言います。あなたにとっての強さは私ですか?」


あなたにとっての……強さ?


「あなたは私のようになってはいけない。

あなたは、鮎沢さんです」


そういって、私の隣をすっと通りすぎていった佐伯さんの顔は少しだけ笑っているように見えた。