「曖昧ってとこか……」

「……」


正直、その通りだった。

私のここでの記憶は曖昧だ。

だけど……


「……優愛?」


陽向が心配そうにこちらを見てくるのがわかる。


「全部忘れた訳じゃない」


現に、陽向のことは覚えてた。

ばあちゃんのことも覚えてた。

だけど、それ以上は多分あんまりよくわからない。

私が今言えることはこれだけ。


「……そっか。……悪かったな。変なこと聞いて」


そういって、いつもの笑顔に戻った陽向。

私にはなんで陽向が笑ったのかわからなかった。


「陽向はいつも笑ってるよね?」


思ったことが素直に言葉に出た。


「よく言われる」

「疲れないの?」

「それもよく言われる」

「……バカみたいだね」

「んー、それは言われたことねーわ」

「……笑いたくなきゃ、笑わなきゃいいのに。

本当にバカみたい」


口が勝手に動いていた。

私は普段感情的になることなんてない。

なのに、頭で考えるまもなく声に出していた。

なぜだか、陽向に妙にムカついていた。

理由なんてわからない。

陽向のその表情が、私にとってはすごく、すごく、苦しかった。


「それはさ、誰にいってんの?」

「え、」


だけど、陽向からの返答は予想外のものだった。


「それはお前の方じゃねぇの?」


そういった、陽向の顔はもう笑ってはいなかった。

ただじっと、私だけを見つめているようだった。


「……私……?」

「自覚ねぇなら重症だな」


そういって、陽向は立ち上がって私の目の前まで来る。

そして、ゆっくりしゃがみこんだ。


「俺の前だけでも、強がるのはやめろよ」

「陽向、なにいってんの?」

「俺、お前に久々にあったとき”変わってない”っていったけど、間違いだったな」

「え、」


陽向の顔が少し悲しげになる。

ねぇ、なんで、そんな顔するの?