「あ、おじさん!綿あめひとつ頂戴!」

「おお、陽向じゃねえか!ん?今日は彼女連れかー!?

見ない顔だけど、どこのこだい?」

「あ、鮎沢(優愛の苗字)ばあちゃんの孫なんだ」

「……ああ!よく陽向の背中に隠れていたあの子か!

大きくなって、綺麗になったもんだー。ほら、サービスだ。二つ持ってけーい」


そういって、私たちの前に出された大きな二つの綿あめを陽向は嬉しそうに受け取った。


「おー、サンキュー。おじさん!」

「おう!いいってことよー。二人とも仲良くやれよ」


そういって、にこやかに笑うおじさんに私はペコリと浅くお辞儀をしてから私たちはその場を離れた。


陽向は片手に綿あめ2本。

もう片手は私のてを握ったまま、私をどこかへつれていこうとしているようだった。

人混みを背中に、陽向はどんどん前へ進む。


「ねぇ、ちょっと。どこいくの?」

「内緒!」


どこへ行くのかを聞いても、こんな調子で、一行に目的地を私に教えてくれない。

大人しく、黙っててを引かれる私。


こういうの、陽向はなれているのかな。

こうやって、普通に女の子を祭りに誘って。

こうやって、普通に女の子のてを引いて。

こうやって、普通に女の子の好みの食べ物を知っていて。


昔の陽向の記憶はとても曖昧で、どんな男の子だったかなんて詳しくは覚えていない。

だけど、なんでだろう。

この背中は何だか見覚えがあるんだ。


「ん、座ろうぜ」


そういって陽向が立ち止まった場所は小さな神社だろうか。

私たちはその階段に腰を下ろした。

そして、陽向から、「ん」っと綿あめを手渡される。


「そう言えばさ、よく覚えてたね。私が綿あめ好きってこと」

「ちっちゃい頃、祭りでお前それしか食べてなかったからな」

「そうだっけ」

「ああ。よく覚えてるよ。お前が覚えてなくても」


そういった陽向の声が悲しげだった。

少し心配になって、陽向の方を向くと、陽向はそれを降り払うように少し笑った。


「……あのさ」

「ん?」


陽向が私のてを放した。

そしてこちらをむく。


「会えてよかった」

「……え、」


そういった陽向の顔はなんだか切なくて、今にも泣いちゃうんじゃないかって思えた。

だけど


「ほら、早く食えよ。俺、もう仕事戻らねーとな」


そういって、いつも通りの笑顔に戻った陽向。

だから、思っちゃったんだ。

きっと、私の考えすぎなんじゃないかなって__________________。