「知らないよ。私、そんなの。お母さんからそんなこと聞いてないし。

なにいってんの、陽向」


私は少し笑いながらそういってみたけど、陽向の顔はいっこうにあがらなくて。

それが本当のことなんだって実感する。

なんで?

只のぎっくり腰じゃないの?

______なんで?


「この夏、熱中症でばあちゃん倒れたんだ。俺がそれを見つけて急いで救急車呼んでさ。

それですぐに回復してまた元気になるだろうって思ってたんだけど、もうばあちゃん81歳だろ?

結構体弱ってきていたみたいでそのまま衰弱しちまってさ。ばあちゃんの希望で最後は自宅で過ごしたいって言ったから今は自宅療養中ってわけ」


陽向が淡々とばあちゃんの病状を説明してくれる。

たしか、ばあちゃんは、私の祖父にあたるじいちゃんを早くに戦争で亡くして、女でひとつで私の母を含む5人の子供をこの小さな小さな島で育てた。

私の記憶が曖昧だっていっても、ばあちゃんのことを忘れたわけではなかった。

いつもにこにこして私を出迎えてくれるイメージがあった。

そんなばあちゃんか……

もう長くないなんて……

そんなの


「なんで……」


なんで?


「なんでっ!もっと早く教えてくれなかったのさっ!」


私は目の前にいる陽向を睨んだ。

なんで、あんたが知ってて、私が知らないの?

本当の孫は私じゃん。

涙が出そうになるのを堪えながら必死に叫ぶ。

陽向に今さら当たったったなにも変わらないだろうけど。

そんなのわかってるけど。

だけどっ……

このもどかしい気持ちをどうにかする方法は他に見つからなかった。


「……わり。ばあちゃんに口止めされてたんだ。

だけど、俺がばあちゃんに我が儘いって、お前んちにはぎっくり腰でばあちゃんが倒れてるって伝えた。

そういえば、お前がここに来ると思ったから」


そういって切なげに笑った陽向。