悲しみの経験が、涙を流した経験があるから人に優しくなれる。

人に優しくできるから、人は自分にも優しくしてくれる。

そうやって、世界は回ってるんだよね。

だから、この涙は私を幸せにするためのスタートライン。

なら、私の向かうべきところはもう決まっている。

本当は怖い。

だから、逃げてた。

真っ当な理由をつけてあなたから逃げていた。

だけど、それももう終わり。

私はゆっくりと立ち上がった。

そして、居間を出たその瞬間だった。


_________ガラっ……


玄関の扉を勢いよく開ける音が聞こえたと思ったら


「……っ!」


な、んで……?


「優愛っ!」


声を出したのは向こうだった。


「ひ、なた……」


なんであなたがいまここにいるの?

足が動かなかった。

まるで、石になったような気分だ。

全く体が動かない。

その間にも陽向は靴を脱いで勝手に玄関を上がって私に近づいてきた。

そして、私の目の前で立ち止まる。


「ごめんな、優愛」


何をいうかと思ったら陽向はそういって……泣いたんだ。

きれいだと思った。

男が泣くなんて。

この涙を見るまではそう思っていたが、いまは全くそんなことは思わない。

頬を伝う陽向の涙が、ポロリと地面に落ちた。

それはまるで魔法のようで、私の体が動くようになる。

私はそっと自分のてで陽向の涙を脱ぐった。


「ねぇ、陽向」


私がそういうと、陽向は目線を下げて私を見た。


「夏の日、覚えてる?私と陽向が久しぶりにあったあの日」

「……ああ、覚えてる」

「再会は最悪だったね。私は陽向のこと空き巣扱いしそうになっちゃったし」


私がそう言うと、陽向は微かに笑った。

そして、小さな声で、そうだなと呟いた。


「……陽向。笑って」

「……っ!」