急に男の口調がかわった。

どうやら、怒っているようだ。

一体何に関してそんなにおこってんだよ。


「優愛ちゃんがいま何に対して怯えているか。君と会うこと自体に怯えているのか。ちげぇよ!

……陽向。お前に嫌われてないか、それが一番怖いんだよ」

「……んなこと、なんでわかんだよ」


なんで、部外者のお前に分かるんだよ。


「ちゃんと、優愛ちゃんを見てるから。陽向、あの夏の日から優愛ちゃん自身をちゃんと見てやったのかよ!」

「……っ!」

「あいつのこと、ちゃんと考えてやってたのかよ。

記憶の戻ったあいつと、ちゃんと向き合おうとしたのかよっ!」

「……っ!俺は……」


なにも言い返すことなんて出来なかった。

だって、こいつのいっていることは正しいから。

ただ、自分の唇を噛み締めることしか出来なかった。


「なぁ、好きなんだろ?……優愛ちゃんのこと」

「……ああ……」

「……じゃあ、ちゃんと会ってやってよ。ほら、行くぞ。お前もこいよ。そうしねぇと俺また迷子になっちまうから」


そういって、男はこの場を離れようとした。

一滴。

地面になにかが落ちた。

なんだろう。

雨か?

いいや、違う。

俺はそっと自分の手で自分のほほを撫でた。


「……あ、地図あったっ!じゃ、陽向くん。俺先いってるからね」


俺に気を使ったのか、どうなのなよくわからないが、そういって、男は俺の前からいなくなかった。

いつぶりだろう。

涙を流すのは。

ずっと、ずっと、泣けなかった。

泣きたかったわけじゃないけど、そんな自分を少し不思議に思ってた。


「そういやぁ、母さん。前、変なこといってたな」


あのとき、正直俺なにいってるか全然わかんなかった。

俺がまだ小学校に上がったばかりの頃だったっけ


『人間、泣けるということは、笑えるという証だからね』


そういって、母さんは笑ってた。

俺と優愛は二人して首を傾げた。