「そういえば今日、変な夢見たんですよ」

「変な夢?」


順調に道を辿る中、私はふとそんな言葉をこぼした。

先生の視線が私に向き、首を傾げる。
先生は一見すればかなりの美青年だ。一体この仕草に騙された女性は何人いるだろう。

私は先生を見つめ返す。


「夢の中では、私はまだ5歳位の歳でした」


そう言うと、先生の目がみるみるうちに見開かれていった。

私は見た夢の内容を、一つ一つ丁寧に説明した。
見た夢の内容なんてすぐ忘れるのに、しっかりと覚えているのが不思議だ。


「それって……! 」

「まあ、夢ですよ、夢」


「そんなこと言うな。どんな小さなことでも、君の記憶に繋がることもある」


すべて話し終わると、思った以上に先生が食いついてきた。

聞いたことも無いような真剣な口ぶりに、私は 「そうですね」と頷くしかなかった。



私が今日見た、夢。

滅多に見ることのない、幼い私が出てくる夢だった。

その頃の私の事を、私は知らない。



生まれてから10年間の記憶が、私にはないから。