「ふぁあ……っ、なんで今日はこんなに早起きするんだい?」
部屋を出た後、私達は1階の食堂へ向かっていた。
眠そうに大あくびをする先生に、私は再度呆れた表情を浮かべた。
「もう忘れたんですか?今日は薬草買いに行くんでしょ。
馬車も迎えに来るんですから、遅れちゃダメなんです!」
そう言い先生を睨むと、「あー、そうだったね……」とまた怠そうにあくびをした。
薬草を買いに行くのには、理由がある。
寝坊助な先生の職業は、なんと医術師。私はその助手といったところだ。
都から遠く離れた里に住む私達は、民宿の3階で診療所を開いている。
そのため、都まで定期的に薬草や医術道具を買いに行かなければならない。
それがまさに今日なんだけれど……どこかの男はそれをすっかり忘れていたようだ。
先生と談話しながら階段を降りて食堂に足を踏み入れると、ぷぅんと朝食の良い匂いが立ち込めてきた。
中には、色白で細身の若い男が1人、食事の後始末をしている。
「汐(ウシオ)君、おはよう」
「おはようございます、汐さん」
先生の後を追って、挨拶をしながら食堂の椅子に座った。
この人は民宿の宿主、汐さん。皆のお父さん的存在で、宿に居候させてくれている。
「あ、二人共おはよう。朝ごはん食べてくでしょ?」
そう尋ねられて頷く先生を見て、汐さんは調理室に移動した。
調理室と食堂は隣接していて、ここからでも汐さんが見える。
「一緒に都にいくんでしょう?本当に仲がいいねぇ」
汐さんはニコニコ笑いながら、大きな鍋を暖め始めた。
私はため息をついて先生を見る。何を思ったのかニッコリ微笑まれてムカつく。
「この女たらしはすぐ風俗で金を使おうとしますからね。誰かついていないと」
「先生にひどい言い様だな……」
「あっはっは!」
毒を吐く私に苦笑いを浮かべる先生、そして笑い飛ばす汐さん。
これが、私達の日常の朝だ。