ゴリラは私が抜刀したのを見ると、少し驚いた顔をした。私がまだ戦おうとしているからだろう。
でも、すぐにまたニヤリと笑みを浮かべた。
「そうか……なるべく最後の手は使わずにいようと思ったんだがな」
そう言うとゴリラは腰の鞘から大剣を取り出し、いきなり飛びかかってきた。
それを短剣で受けると、ガキンッ!と金属が打ち付け合う音が辺りに響く。
確かに力は強い。でも相手をよく見ずに斬りかかってくるようなあたり、最後の手と言う割には……
そう思った矢先だった。
ゴリラの目が私より少し上に向いた。
それと同時に背後で空を切る音。
ニヤリ、と歪むゴリラの口元。
咄嗟に後ろを振り向くと、これまた大男が私に斬りかかろうとしているのが目に映った。
まさか、まだ敵が――。
そう思った時には遅かった。
「……っ!」
足が鉛にでもなったのか、体がうまく動かなくない。さっきの痺れ薬の影響だ。
苦し紛れに後ろを見れば、ゆっくりと剣が迫ってきてるのが分かる。
これが走馬灯って奴か……なんて呑気なことを考えながら、私は静かに目を閉じた。
ごめんなさい先生、貴方に大した恩も返せずに……。
毎朝もう少し優しく起こしておくべきでした。せめて目覚ましビンタにしてあげれば良かったのに。
風俗にももう少し行かせてあげれば、金使いの荒さにも仕方ないと笑ってあげられれば……。