「お呼びでしょうか…ハートの女王」

目が見えないくらい深く帽子を被った男が、跪きながら言った。「遅くなり申し訳ありません」


ハートの女王と呼ばれた者が笑う。

「あぁ、時間通りだよーー3分と42秒の遅刻だ。…ところで帽子屋、お前はまたそんな帽子を被っているのかね?お前は帽子屋なのだから、帽子くらいは帽子に見える帽子を被りたまえといつも言っているだろう。そんな事だからお前の店はいつもーー」

「私はこれを気に入っております故。それより私をわざわざここに呼んだということは、何かまた面倒くさい命令を私に寄越すためでございましょう。とっとと言って下さい、陛下」


「…まったく君は、私の気分を害すことだけは得意だよ」

ハートの女王と呼ばれた者はそう言いながらも、まるで仮面のような笑を絶やさない。

「ーーこの国にまた不要物が紛れ込んだらしい。話には聞いているな?」

帽子屋と呼ばれた男は、反対に無表情を崩そうとしない。

「ええ、聞いております。して、御命令は」

「命令、命令ーー君は私の命令が大好きな様だ」

ふ、とハートの女王と呼ばれた者は目を細める。





「命令だ、帽子屋ーー…アリスの首を、撥ねろ。」