「 アラキナ様、 」




あたしがいた世界が、狂っていただけだったのかもしれない。



初めて見た外の世界は、ーーー絵本の中で見るよりずっと美しい。



しかし、同時に厳しく暗くもあるものだ。




「 どうしました? 」




アラキナ・グレンジャー。



旧名をアラキナ・ベイントンという。



この国の上級貴族の娘の名であり、わたしの名だ。




「 旦那様がお呼びです 」




わたしは若干16歳でこのグレンジャー家に嫁いだ。



旦那様、即ちわたしの夫であるボルトフ・グレンジャーは、



40代も終わりに差し掛かるというのに、まだ青い小娘を嫁に迎えるようなろくでもない男。