めくりながら、 線の引いてある部分の文字を意味もなく追う。 ふと思い立って、 初めて口づけをした時と同じ場所に立ってみようと、 そっと足音をしのばせて、窓際から少し奥まった所に立つ。 息もひそめた。 静けさをこわしてはならない。 軽い緊張が、 あの時の感覚を鮮やかによみがえらせる。 目をつぶる。 首をそっとそらす。 あごからのどへかけて、 冷涼な空気が、触れる。