彼があたしを抱くとき


「もう、出よう。遅いよ」

「はい」と言ってから顔をあげ、
「正直なんだね」と岸谷さんを見た。

「苦しいだけだ」

岸谷さんが二人分のコーヒー代を支払う。

本屋を出ると、すっかり暮れていた。

コートを着た、勤め帰りらしい女がすれちがいに『ロゴス』に入っていく。