彼があたしを抱くとき


「初めて」

「はい」

「俺もだ」

背に回した腕が、どちらともなく離れ、
岸谷さんは先ほどまであたしが読んでいた記事を読み出した。

チャイムが鳴るまでの数分間、
もとの長椅子に腰をかけた以外、
何を考え、何をどうしたのか覚えていない。