彼があたしを抱くとき


秀太と母が、同じように海を見たいと言う。

海を見たいと。

その近くで生まれ、育ったから。

あたしはどこか自分の身近で波音を聞いた。

それは空耳だったかもしれない。

母の束ね髪がほつれ、パーマをだいぶ前にかけた部分だけが、ちりちりと乾いて風に舞う。

飲み屋と旅館の看板だけが、青白く風の中に光って、人気のあるなしには無頓着だった。