抱きしめてもらいたいと思う分の力で骨太の身体を抱きしめようとあたしがしても力がでない。 「泣くなよ」 「いやだ」 鼻先でリキッドの香りがした。 自分が何をしているのか、よくわからなくなるにしたがって、 大風が吹きぬけていく音がしてくる。 いつかの早春の夜の闇が岸谷の肩の上にあった。