家を出てからも季蛍は不満そうな顔をして。




エレベーターの中で見つめてやれば、みるみる染まる季蛍の頬。



「何?昨日の夜俺が何かした?」




「………み」



「え?」



季蛍に体を寄せて耳をすませると



"おおかみ"


とだけ言って俺を見上げた。




「は?」




「おおかみ……なん……いって……やくそ……」



声を震わして涙を堪える季蛍は、涙がこぼれないようにか泣くのを我慢して言葉を繋いだ。








"おおかみにならないって約束した"







何を言っているのかがわからなくて、泣きそうな季蛍を見つめていたら、やっと何かが繋がった。




「あ」


思わず体を抱きしめて、最初に出た言葉は


「ごめん」






「季蛍に何かした?」




「……してな…いけど…ッ」



「酔ってたのかな。ごめんごめん、約束してたから」



季蛍が怒る理由が、まさか"おおかみになったから"だなんて…ちょっと笑える。




「酔ってる蒼は嫌い」



そう言って真っ赤な目で見つめてくる季蛍のこぼれ落ちた涙を拭う。



「出勤前だろ?泣くなよ」



「…だって」



意図的じゃないおおかみさんを怖がる気持ちもわからなくはないけれど。