「季ー蛍」


何度呼んでも反応はない。


ふと時計に目をやると、時刻は午後10時を回った。




──コンコン



ドアがノックされると、蒼先生が顔を覗かせた。



「悪いな。仕事の手止めて」



「……主治医ですよ?」



「あ、そっか」



冗談っぽく笑った蒼先生は、季蛍の肩に手を当てて名前を呼んだ。



「喘息?」



「確認はしたんですけど喘息じゃなかったです。ただ意識がなくなる前に吐血が少量だとか」



「…何だろ。最近喘息だけは酷かったからな」




前髪をそっと分けて、蒼先生は何度か名前を繰り返した。