──「高島せんせーい」
医局に戻ろうとしていた所に、看護士がパタパタと走ってきた。
「今、大丈夫ですか?」
困り顔の看護士に『季蛍?』と聞けば、苦笑いが返される。
「急変か何か?」
医局への足を病室へ変えて、看護士と一緒に向かう。
「いえ…特には。ただ…熱を測ろうとしたら泣かれてしまいまして」
「それだけで?…不機嫌だな、今日も」
「最初は私だけで何とか…って思ったんですけど…測れなかったんです…」
落ち込む看護士は『すみません』と俺の隣でしゅんと縮まってしまった。
「いや、季蛍がわがままなだけだよ。河崎さんのせいじゃない!!」
「でも……多分私が泣かせたんだと」
「まさか」
病室に着くと扉が少し開いていて。
中に入ってみると、ベッドの上でタオルに顔をうずめる季蛍がいた。
声を上げて泣いているのではなくて、タオルに顔をうずめて…声を押し殺して泣いている。
「何かあった?」
聞いてみるけど泣きやまないままタオルから顔を離さない。
「熱測ろうとしてくれたのに泣き出したら看護士さんのせいみたいになっちゃうでしょ?どうして泣くの…」
背中をさすってあげると、ほんの少し顔を上げてくれた。
「た…ッヒッグ…ッたいい…ッヒッグ…」
「ん?」
「たいい…んしたい…」
季蛍から漏れた言葉に、思わず笑いがこぼれてしまう。
「退院したい?…それで涙出てきたのか?」
「高島先…生ッ……も、家帰る…」
「…でもまだ意識がはっきりしないんだもん。熱があっても帰そうとは思ってるよ」
「も、…帰る」
…あぁ、夏来くんが来たから家が余計に恋しくなったんだな…さては。