何人かの患者さんの急変に対応して医局に戻った頃には、すでに時刻は次の日を迎えていた。



「あ、高島」



「蒼先生…も夜勤ですか?」



「うん、終わんなくて」



カルテの束に手を置いて苦笑した蒼先生は、
『あっ』と何かを思い出すように声を上げた。


「季蛍のナースコール、さっきあったよ?…10分前くらい」



蒼先生は腕時計を見て言うと、『問題ないみたいだけど』と付け加えた。


「本当ですか?…大したことじゃないならいいんですけど」



向かった方がいいかどうか迷いながら、医局の入り口に突っ立っていると、蒼先生は笑って。


「大丈夫、落ち着いてるから」



「あ、そうですか」



「看護士が行ってくれた。ちょっとわがまま言ってるらしかったよ、俺行ってないけど」



「そうなんですか。何かあったら呼べって言ってあるので」



「どうやら今日は俺の名前じゃなくて高島の名前を呼んでたらしいよ?話によると」



「え、俺!?」



「んふ、そんなに驚かなくても」



「いや、でも」



「高島先生呼んで下さいって。はは、そう泣き叫ばれてもなぁ」


そう言って蒼先生は苦笑いした。