───それから数時間。
外は真っ暗で既に時計の短い針は9を指している。
診察室でパソコンに向かっていると、ノックと共に蒼先生が顔を出した。
「お疲れ」
「あぁ、蒼先生。お疲れ様です」
「まだ仕事か?」
「いえ、季蛍のカルテチェックです」
その言葉に蒼先生は小さく頷いた。
ベッドには顔色がさっきよりも悪くなった季蛍が座っている。
「季蛍もお疲れさん。診察受けてくれて良かったよ、昨日嫌がってたもんな」
「…んなことないし」
元気のない季蛍を見てか、蒼先生は少し不安そうに見つめる。
「肺炎の咳はイヤな咳だな。区別がつくよ」
蒼先生は季蛍の隣に座って、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「…1週間…2週間くらい入院したら十分だと思うので」
「そんなに…」
季蛍の力ない声が聞こえると、蒼先生は俺に苦笑いを向ける。
「仕事のことは気にしなくて大丈夫。季蛍は早く治さなくちゃ」
「…んも、治んない!」
「…え?」
急に声を上げて立ち上がった季蛍は、ハァハァと短い息を繰り返して床に座り込む。
「も……治んない…入院……しない」
今までは落ち着いていたんだけど。
「苦し、もう息できな……死んじゃう」
蒼先生も季蛍の隣にしゃがむと『大丈夫』とだけ声をかけて季蛍の震える手を握った。
「息、苦しくない。死んだりなんてしないし呼吸もできるでしょ?」
冷静に蒼先生は季蛍に言葉をかけていたけど、季蛍はそれを止められないようだった。
「…ん……息できないよ、…苦し…ッ」
床に手をついて浅い呼吸を繰り返す季蛍を、蒼先生はやんわり抱き上げてベッドに下ろした。
「大きく呼吸したら落ち着くよ。大丈夫、苦しいのなんてすぐ消えるから」


