──コンコン
力ないノックがされて『はーい』と返事をするとゆっくりドアが開いた。
「………」
黙って入ってくる季蛍に目を向けると、元気がないんだか診察がイヤなんだかわからないけれど、シュンと小さくなっていた。
「…おはよう」
「おは……」
「…え?」
「おはよう……ございます」
「何で既に泣きそうなのよ」
「……別に泣きそうじゃないです」
「蒼先生から連絡来るんだもん。イヤな咳してて何かヤバそうって」
椅子に座った季蛍の後ろに島内さんが立つ。
「酷くなってからじゃ遅いんだけど」
「…別に我慢なんかしてないです」
「どうだか」
俯いている季蛍に寄れば、避けるように椅子を引いた。
「逃げないの」
島内さんによって季蛍の背中が軽く押され、また元の場所に戻される羽目になってるんだけど。
頬を両手で包んで瞼を下げると真っ白なのが結構目立つ。
「貧血は俺やだよ~?ちゃんとご飯食べてるの?顔も青白いじゃん」
「……」
「熱ないのに咳続いてるなんて。珍し。風邪かもよ」
「…ん…でも蒼がイヤな咳だって」
「んふふ、そっか。まぁ診てあげるから。…ん、あ…ちょっと待ってて。カルテ取って来ちゃうから」
診察室の奥に向かえば、季蛍の小さなため息が聞こえた。