俺に泣く権利はない。


普通、殺人犯は自ら手にかけた
被害者の死を泣かない。
泣く資格なんかないからだ。


殺した人間はもう甦らない。
だからきっとこの先、
俺を許すものなんてどこにもない。


それでいいよ。


俺はその罪に懺悔して生きていく。
一生幸せになんてなれなくていい。
人の幸せを殺したのだから。


死にたくなるほど辛くても、
自ら死ぬことも許されない。

季織の託した未来、
ほかの女の子は好きになれないけど、
夢は叶えてみせるから。

償いになんてならないけど、
一生自分を責めて生きるよ。




「俺、そろそろ行かないとな
撮影あるからさ」

「あ、うん!」

4年前の夏から撮影しているあの映画は、
5年ものの大作で
今も撮影が行われている。

残酷だけど、
あの時に季織が死を選択していなければ、
俺の身心はぼろぼろになって
撮影を続行できなかったかもしれない。


『私がずっと傍に居るよ』


肉体はもうないけれど、
あの約束はちゃんと叶ってる。


ありがとう、季織。


「じゃ、また」

「うん、頑張ってね!」


………………………………………………………………………
頑張れ、頑張れ湊魅。
………………………………………………………………………


うん、頑張るよ。
季織、香織。


背中を向けて、俺は一歩踏み出した。


「あー……香織、
一ついい忘れてた」


きょとんとして首を傾げる香織に、
俺はあの頃のように笑ってみせた。

4年間使い古した
作り笑いなんかじゃなくて

季織が好きだと言ってくれた
守ってくれた
本当の笑顔で。


『お姉ちゃんが好きだった?』


香織はそう尋ねたけれど、
きっとこの俺の言葉が
過去形なることはないんだろう。






「大好きだよ、今でも」









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