幼馴染み~初恋物語~

一方、放心状態の櫻と健一は、まだ誰も戻ってこない木陰で無言のままだった。

ぬいぐるみを落として、動揺したまま立ち尽くす櫻に、健一は必死にフォローの言葉を考えるが、思い付かない。

この場で何を言っても無駄だろう。

そこで健一は携帯を触り始めた。

【櫻ちゃんの体調が悪いから、俺が家まで送って行くので、みんな楽しんで遊んでてください】

テニス部のメンバーに、メールを一斉送信したのだ。

「帰ろっか?俺が家まで送ってあげるからさ」

「はい…………」

何もできない健一ができることは、嫌な思いの残るこの場から櫻を連れ出す事だけだった。

櫻は涙を目に浮かべたまま、無言で歩く帰り道。

静かな住宅街を並んで歩いていると、健一が呟いた。

「櫻ちゃん…………」

「はい…………?」

櫻が健一の方を見た瞬間、強く抱き締めてきた。

えっ…………

健一先輩…………?