そんな気持ちで見ていた櫻の元に、和樹が一番最後にやって来た。

「昨日、可愛い熊のチョコレートを櫻ちゃんのお母さんが持ってきてくれたよ?」

「えっ…………本当に…………?」

昨日、櫻が寝てしまった後に、母親が和樹の家に持って行っていたのである。

何も知らずに呆然としている櫻には和樹が笑いかけた。

「本当だよっ!!櫻ちゃんの手作りなんだって?上手だったよ?」

暗くなっていた櫻の表情が一瞬にして明るくなる。

「うんっ!!頑張って作ったんだ~」

正確に言うと、チョコレートを溶かして、型に流し込んで冷やしただけ。

それを子供達の視線からすると手作りになる。

「せっかく作ったのに、昨日渡すの忘れてたんだって?おっちょこちょいだなぁ…………櫻ちゃんって」

「えへへっ!!ごめーんっ!!」

「櫻ちゃんから貰ったチョコレートが一番嬉しかったよっ!!ありがとうねー?」

櫻は心底嬉しかった。

和樹が一番嬉しいと言ってくれたから。

放課後、和樹は穂香に「好きとか嫌いとかないから、これからも友達でいようね?」と母親に言われたように伝えた。

大人がこう言えば、体のいい断り文句だが、小学生なら付き合うなんて言葉がないのだから、単純に友達でいようという言葉。

穂香もこれで納得したようだった。

女の子にとって特別な日のバレンタインデーは、こうして幕を閉じた。