心優が体育館に入ると、中では生徒会とその手伝いらしい生徒達が慌ただしく準備に追われていた。
その近くにいた教師に旨を伝えると、ステージ脇に行くよう促される。
そこには、成る程、中心メンバーらしい生徒が集まっていた。
新入生に配られる造花を胸に差した心優に、ああ、と視線が向けられる。
「貴女が藤井心優さん?」
「はい。遅れて申し訳ありません」
「橋川先生、桐川先輩。代表の子、来ましたよ」
少し離れた所で話していた教師と生徒が、その声に近付いてきた。
年配だが笑い皺に好感を持てる男性教師は心優にもその笑顔を向ける。
「はじめまして、えっと・・・そう、藤井さん。頼むよ、挨拶」
「はい」
対照的に愛想笑い一つ浮かべない生徒は、心優を上から下まで眺め、言う。
「生徒会長の桐川だ。入学おめでとう」
「有り難う御座います。桐川先輩」
「造花の位置が少しずれている。直しておくように」
あの視線は身嗜みをチェックしていたものだったようだ。
心優は言われた通りに造花を動かす。しかし、いまいち勝手がわからない。そもそも心優にとって身嗜みの細かいところというのは理解できないものだ。
すると、近くの女子生徒がやってくれた。既に遠くに行った桐川を見ながら小声で心優に話す。
「ごめんね、うちの会長、無愛想なのよ。校則にも超厳しくて」
「いえ、そんなことは。・・・あ、有り難う御座います。直して頂いて」
「いいえー。
でも、見た目は良いよね。桐川君」
「背筋が伸びていて、立ち居振舞いも素敵な先輩だと思いました」
「ねー。
絵に描いたような会長っぷりなのよ。頭良し、スポーツ良し、顔良しで。狙っちゃ駄目だよ?後輩にはまだ早い!」
「桐川先輩は人気があるんですね」
「そう。バレンタインとか、漫画かよってくらいチョコ貰うし」
友人に呼ばれたらしくその生徒は立ち去っていった。
と、また別の生徒が心優に話しかけてきた。それは先、橋川と桐川を呼んだ生徒。今度は去った女子生徒を見ながら。
「気にしちゃ駄目だよ。あの人の言うこと」
「・・・言うこと、とは?」
「ほら。桐川先輩狙うなってやつ。
あの先輩、自分が桐川先輩にフラれたからってムキになってるの。嫌な性格してるでしょ?」
「そうだったんですか・・・」
「後輩が誰狙ったっていいのよ。あんな古い考え持つ先輩の言うこと聞かなくていいからね」
そうは言うものの、その生徒も桐川に想いを向けているようで。
心優はそんな生徒達に囲まれながら思う。
早く挨拶練習したいなあ、と。
