鳥が囀ずり、木々がさざめく。
心優(みゆう)は空を仰ぎその光に目を細めた。
「今日も良い天気だ・・・この日の光、この爽やかな空気・・・」
「あんた悟りすぎじゃない?心優」
隣の少女が呆れ顔で心優を見ていた。彼女と心優は同じ制服を着ている。周囲の花はヒメジョオン、ノディサ、キキョウソウ・・・。
「御早う。千佳子。
春の香りとそれを喜ぶ生物の囁き・・・私の心も洗われるというものだよ」
「・・・本当にあんたって、変よね」
そう言う千佳子は小学5年生から心優を知っているが、心優のよくわからない性格はその時からだった。
通行人が怪しげに心優を見るが、それも当然だろうと千佳子は思う。
「歩けば動物が寄ってきて、風邪知らず、おみくじは大吉以外引いたことがない。
変なのに、運だけは神がかってるわ。それとも変だから?」
「そんなことない。私は周りに恵まれてるだけだよ」
「ほら、そういうことさらっと言っちゃう・・・」
千佳子は自身の性格が良いとは思っていない。本音はそうでなくても、嫌みな言い方になってしまい、相手を不快にさせたこともしばしば。
しかし心優は千佳子のどんな言葉もにこにこ受け流す。千佳子の本音をいつも掬い上げてしまう。
そもそも、心優の怒った姿を千佳子は見たことがない。
「心優、何度も言うけどさ。
あんたの性格は社会じゃ通じないよ?世の中には嫌な性格な奴とか裏表激しい奴とか、沢山いるんだから。
あんたみたいな子は直ぐに潰されちゃう。もっと周りを警戒しなきゃ」
「千佳子は本当に優しいね。大好きだ」
「ばっ・・・馬鹿じゃないの!そういうところが駄目なのよ!」
「あ、そろそろ行かないと遅刻してしまう」
「ちょっと!!」
さっさと歩く心優を、千佳子は顔を真っ赤にして追いかけた。
