花明かりの夜に

「いいえ、そんな、近いですし一人で帰れます」

「……」


そう言うと思った、とでも言いたげににニッとほほえむと。

紫焔はさっと立ち上がった。


「そうは言っても引き止めたのはわたしだ。誰かに送らせよう。

――だれか沙耶を春日の屋敷まで送ってやってくれ。

楓、用意しろ」


誰かに声を掛けながら、あっさり部屋から出て行ってしまった。


「……?」


意外なまでにあっさりとした引き際に、肩透かしを食らったような気分。

朝のようすから思うに、てっきり何度か引き留められると思っていた。


(用意しろ、って、こんな時間からお出かけなのかしら)