花明かりの夜に

お屋敷の長い廊下を順に雑巾掛けをしながら。

沙耶の心は、空に放たれた鳥のように過去へと飛んでゆく。


(最初は、つつましいながらも普通の暮らしをしていた――

6歳になるころに父が突然亡くなるまでは)


手を機械的に動かしながら、ぼんやりとした記憶をたどる。

大工をしていた父は、落ちてきた木材で頭を打ってぽっくりと死んでしまったのだ。


やがて治らぬ病で母をも失い。

ただの「無力な子ども」がひとり残されてしまった。



そのころの沙耶の遊び場所は、ちょうど近所で座をかまえていた旅芸人の芝居小屋。

たまたま神社の境内で知り合った子どもが一座の一員だったのだ。


芝居小屋の中は、まさに宝箱かガラクタ小屋か。

いつもおもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎで、見たこともないようなものは数知れず。そんな世界が新鮮で。