花明かりの夜に

(ずいぶん遅く……?

どこかの姫君のお部屋にでも?)


聞きかじったことをちらりと思い出しながら。

起き上がるかすかな気配にそっと顔を上げて、思わずごくりと息を呑み込んだ。


(わ――)


この屋敷にご奉公をはじめて十日。

忙しく留守がちの若君と、こんなに間近で顔を合わせるのは初めてだった。


顔の周りをふちどって、肩を流れるように垂れる長いつややかな黒髪。

きりりとした細く黒い眉。

切れ長の黒い瞳は、からかうような笑みを浮かべて流し目にこちらに向けられている。


身を起こして、はだけた上半身を隠すように掛けられた濃紫の羽織がなめらかな肌に映えて。

その姿がそのまま、まるで絵のよう。