花明かりの夜に

「昔、この宿にも若さまが一度お泊まりくださったことがあるんだよ。

あとにも先にも、一度だけだがね。

離れにお泊まりになって、景色をお褒めくださったよ」


誇らしげに続ける主人の声に、ほうきを掃く手が早くなった。

何かを掃き飛ばしてしまうように。


(いや、そうじゃない――

去らなかったとしても、同じ知らせを聞いたでしょう)


最初から結論は決まっているのだから。

どれだけ遊び相手がいたとしても、妻に迎えるのは良家の姫君。そんなもの。


自分など、たわむれに手折られる、いっぷう変わった路傍の花にすぎない。

踏みつけられ泥が付いたような、みすぼらしい花。


「さぁて、夕食どきだ。

もうひと働きといくか」