花明かりの夜に

「……でもね、当然のお申し出だと思うのよ。

藩主さまのお屋敷ともなれば、住み込みで働くのが普通なのだし。

疲れがどうのというのは、角が立たないようにおっしゃっているだけでしょう」

「……桔梗さまは何とお答えになったのですか?」

「一度あなたと話してみる、と申し上げたの」

「……疲れてなどいない、とわたしからお返事差し上げておきます。

以前に比べたら、お掃除やお洗濯なんて、ほとんど休んでいるようなものですから」

「まぁ……」


きっぱりと答える沙耶に、桔梗は返答に困ったようにしばし口をつぐんだ。


沙耶は過去のことをほとんど語らない。

が、何か大変なことがあったらしいことは桔梗にも容易に察することが出来たから。


傷んだ派手な着物に傷んだ履物で、目を真っ赤に泣きはらして川べりに呆然と腰掛けていた、あの日の沙耶。

話を聞いてほしければ自分から話すだろうとあえて事情を聞かずにいた。