花明かりの夜に

(たしか、若さまは毎朝武道のお稽古をされているんだっけ。

だから、早い時間からこの部屋はいつも空っぽだとか)


――それにしても、昨日はほんとうに驚いた。

木の枝に引っかかってしまった着物を取ろうと苦心していたら、横あいからとつぜん矢が飛んできたのだから。

しかも、あれだけの距離から、めざす枝を正確に射抜いた。


(大した腕ね。

それに、大した自信ね)


思わず肩をすくめる。


(若さまの腕があれほど確かじゃなければ、わたしは今ごろ怪我をしていたかもね)


怪我どころか、命すら落としていたかもしれない。