「...榎本さんのかな。今から行けば、まだ間に合うかな」
....え。
先輩のその言葉に、なぜか焦った。
確かに、まだ榎本先輩が教室を出て、五分くらいしか経ってないけど。
え、行くの?
追いかけるの?
私の戸惑いなんか知らないお人好しの先輩は、急いで教室を出ようとする。
...え、うそ。
「ごめん百合、ちょっと待ってて。すぐ戻るから」
そんなことを言って、私の目の前からいなくなろうとする。
榎本先輩に笑顔を見せる、汐見先輩を思い出した。
.....やだよ、先輩。
こっちだけ見ててよ。
「やだ.....っ」
ほぼ衝動的に伸びた手が、学ランの裾を掴んだ。
先輩が目を見開いて、振り返る。
私はハッとして、慌てて手を離した。
「....ご、めんなさい。....あの、えと、違うんです。い、行ってください。間に合わなくなっちゃうんで....いっ、今のは、気にしないで下さい!」
「.............」
顔が見れなかった。
最悪だ、カッコ悪すぎ。意味わかんない。なんだ『やだ』って。
我慢してたのに。押さえてたのに。



