「でも、その時は流石に辛くて…。お母さんが落ち着いてきた時を狙って、こっちに引っ越してきたの」



それからは、ちあの手の震えは落ち着いた。





亜希子さんも通えない距離へ引っ越して、中学も転校。


そこからは、普通に暮らしてきたと言う。




たまに亜希子さんに会うことはあっても、手を挙げられることはなくなったとのこと。




「正直、アパートの契約更新解除されてここに来る時は、本当に最悪だと思ったけど。でも今は、そこだけお母さんに感謝してる」

「…え?」



なんで?なんて聞く前に、ちあは俺の腕を解いて目の前に笑顔を向けた。



少し涙の跡が残るその顔は、さっきまでとは違いどこか幸せそうで。





「だって、朔に会えたから」



そう言って微笑む彼女に、俺は敵わないと思った。